ファイアーエムブレム エンゲージ — ストーリーガイド⑨

第9章:激突
ストーリーあらすじ

王都を発ったブロディア軍と神竜軍は、吹雪渦巻くブロディア=イルシオン国境地帯に到達した。そこでは既にモリオン王率いる前衛部隊とイルシオン軍本隊が対峙しており、一触即発の緊張状態。

モリオン王は単騎ハイアシンス王に突撃し、激しい斬り合いを繰り広げる。
モリオンの巨剣はハイアシンスの頬をかすめ傷を負わせ、王はこのまま勝負を決するかに見えた。しかしその瞬間、ハイアシンスは不敵に笑い、「復活させた邪竜はまともに歩けもしない。力を取り戻すために王の血が必要だ」と明かす。

モリオンが驚愕した隙に、ハイアシンスは迫る剣を素手で受け止めた。さらに彼は怪しげな力でモリオンを拘束すると、赤く輝く指輪を顕現させ紋章士リンの奥義「流星群」を発動。
無数の魔弓が空から降り注ぎ、モリオン王の身体を貫く。たちまち戦況は逆転し、モリオンはハイアシンスに捕らわれてしまう。
ハイアシンス王は「礼をさせてもらおう!モリオン王、生き血頂戴」と嘲り 、瀕死のモリオン王を竜馬に乗せてそのまま連れ去ってしまう。屈強な男性がさらわれるという衝撃の展開が待っていた。

猛吹雪の中、ハイアシンスは娘アイビーに「ブロディア軍の足止めをしろ」と命令し、イルシオン軍本隊は撤収して行った。
ハイアシンス王の狙いは初めからモリオン王の血であり、ブロディア軍は“餌”に過ぎなかったのである。
神竜リュール達は愕然としながらもモリオン救出のため進軍を開始する。氷雪の国境砦にて、アイビー率いる残存部隊との決戦が始まった。
キャラクターの心理描写と関係性
モリオン王

第9章序盤、モリオン王はハイアシンス王との一騎打ちに敗れ、無念のまま捕らわれてしまった。
自身の剣で敵王を追い詰めたにも関わらず、邪竜ソンブルの加護というイレギュラーな力に翻弄されたのである。
ハイアシンスが語った「儀式には王の生き血が必要」という言葉から、プレイヤーにもモリオンの死がほぼ確定的に感じられる。
実際、モリオンはイルシオン軍に担ぎ去られる間も一言も発せず 、事態を理解する間もなく命運を握られてしまった。この時点でディアマンドとスタルークは父を奪われたショックと怒りでいっぱいだが、直後の戦闘ではその心情を押し殺して敵に立ち向かう。
戦闘中、スタルークが敵兵との会話で「父上と兄上に何かあったら、僕は…」と動揺する場面もあったが、ラピスに励まされ立ち直る(※支援会話Cより)。
モリオン王の悲劇的な退場は、ブロディア王族に計り知れない影響を与え、後の展開で二人の王子がこの喪失にどう向き合うかが大きなテーマとなっていく。
アイビー

敵将アイビーは、父の非情な命令に従い自ら“囮部隊”として残る道を選んだ。第9章開戦前、彼女は部下カゲツとゼルコバに「今ある兵で時を稼ぐしかないわ。嫌なら今のうちに逃げることね…」と静かに告げる。
ゼルコバが「アイビー様は?逃げる選択肢は?」と尋ねると、アイビーは「逃げる選択肢があると思うの…?私は残るわ。負けるとわかっていても。…死ぬとわかっていてもね」と死を覚悟した本音を漏らした。
普段冷徹な彼女がここまで弱音を吐くのは異例であり、この戦いがいかに絶望的かを物語っている。それでも彼女は王女としての責務を果たすため、一人残る決意を固めた。
カゲツは「アイビー様が決死の思いで残ったのじゃ…余も退くわけにはいかぬ!」と忠義を示し 、ゼルコバも「“逃げる”こともできたが、俺は……」と最終的に残留を選ぶ。アイビーへの忠誠心が二人を突き動かしたのだ。
戦闘中も、カゲツは「アイビー様が心配じゃ…余はここで倒れるわけには……」と敗北時に悔しがり 、ゼルコバも「これは“仕事”だ、仕方がないさ…」と自嘲的に戦う。彼らの言動から、アイビーが部下に慕われている様子と、3人の間に固い信頼関係があることが伝わる。
アイビー本人は、戦闘中も寡黙を貫くが内心では様々な感情が渦巻いていた。終盤、リュールと対峙した際に彼女は「ここは通さない…私だって、お父様のことを……」と一瞬声を震わせる。
言葉は途中で途切れたが、“父を想う気持ち”が彼女にもあることが明白。ハイアシンス王の暴走に胸を痛めつつも従わねばならない苦悩、そして自分を見捨てた父への複雑な想い――アイビーはそれらを押し殺し、「王女」として戦っていたのだ。
オルテンシア
本章ではオルテンシアは登場しないが、その動向はアイビー達の会話から間接的に伝わって来る。カゲツとゼルコバの会話によれば、ハイアシンス王は“新たな指輪”(をオルテンシアに与え、祭壇(教会)で待機するよう命じたようだ。
実は戦闘前、オルテンシアは「こんなに待ってもお姉様が帰らないってことは、城で負けて殺されたのかも…」とロサードに漏らしており 、姉の生死に怯えていた。
ロサードに「そんなことない!」と励まされ一旦は持ち直すが、続いて「何でこんなことになっちゃったんだろ。ソンブル様の封印を解いてから何もかもめちゃくちゃ。優しかったお父様も最近はあのフードの子と四狗ばかり…」と嘆いている。
第7章で垣間見せた不安はさらに増大しており、彼女の動揺が感じられる。そんな中ゴルドマリーから新たな指輪を手渡され 、父の期待に応えるべく奮起するのが次章以降のオルテンシアである。
この章では直接登場しないものの、愛する父と姉が自分の知らない所で変貌し遠ざかっていくことに彼女が苦しんでいる様子が細やかに描かれた。この伏線は後に回収され、オルテンシア自身の選択へと繋がって行く。
世界観・宗教的要素の深掘り
邪竜復活の儀式
前章でハイアシンス王が漏らした「邪竜の復活には王の血が必要」という台詞の意味が、本章で明らかになった。
アイビーの降伏後、彼女はリュール達に「お父様(ハイアシンス王)は邪竜ソンブルが力を取り戻すための儀式をしようとしている」と語る。ソンブルは千年前の敗北時に女神ルミエルの封印を受けた影響で、完全復活後もまだ歩くことすら困難なほど弱体化していた。
本来であれば十二個の指輪が揃えば邪竜の力は蘇るはずだが、それには時間がかかるため、代替手段として古の儀式が選ばれたのである。
その儀式こそ「王の生き血」をソンブルに捧げる秘術であり、今回ハイアシンス王がモリオン王を狙った理由だった。「王の血」というキーワードから、これは古代エレオスで行われた闇の儀式の再現だと思われる。邪竜信仰のイルシオンでは、古くから人柱(ひとばしら)や生贄の伝承が残っていたのかもしれない。
アイビーは「モリオン王はソンブルに捧げるため連れ去られたの。最初からそれが目的だったの」と打ち明けた。この衝撃的な情報に、ディアマンドは激しく動揺し「なんだと!?」と声を荒らげ、リュールも「そんな…!」と愕然とする。
邪竜復活によって現世の倫理観が通じない残酷な所業が動き出したことを、彼らはこの時痛感した。
“四狗”の存在
ハイアシンス王が深く信用し配下に置いている“四狗(しく)”と呼ばれる4人組についても、少しずつ情報が出始めた。
オルテンシアは彼らを「城に現れた奴ら」「お父様のお気に入り」と評しており 、モリオンも決闘前にハイアシンスへ「イルシオンは王自ら出向き勇敢にも呼びかけている」と皮肉っていた。つまり、ハイアシンス王は“自ら”ではなく護衛の四狗と行動しているようである。
この時点では四狗本人たちは登場していないが、第10章にてその素顔と名が明かされる(ゼフュア、グリス、マロン、モーヴィエ) 。
四狗はソンブル復活に貢献した邪竜の眷属であり、邪竜教団の尖兵ともいえる存在。ハイアシンス王は自国の将兵よりも彼らを重用し、オルテンシア曰く「たくさん指輪を持ってきたからお気に入りになった」とのこと。
それゆえオルテンシアは自分も指輪を奪還すれば父に褒めてもらえると思いグランスール大橋で奮戦したが、結果的に失敗し自己嫌悪に陥っていた。
このように四狗の暗躍はイルシオン王家の不和を生み、邪竜を巡る人間ドラマを深刻化させている。第9章終了時点でプレイヤーは四狗の詳細を知らないが、彼らの存在がハイアシンス王を陰で操る黒幕であることは薄々察せられるだろう。
戦闘マップと戦術の特徴
第9章「激突」のマップは、吹雪の中の国境砦です。上下二方向から敵軍が迫り、プレイヤーは北から南へ“撤退しながら戦う”レイアウトとなっている。
勝利条件は敵将アイビーの撃破だが、敵を全滅させる必要はなく、画面下部の指定エリアまで味方全員が到達すればクリアすることも可能。しかし実際は四方から強敵が攻めてくるため、ある程度敵を排除しながら慎重に南下する必要がある。
開始直後からマップ全域に猛吹雪のエフェクトがかかり視界が悪くなっている。この演出により緊迫感が増すと同時に、地形「林・茂み」の回避+30効果が視認しづらくなるなど、戦闘の難易度も上がっている。
具体的な戦術としては、味方を上下二手に分け、それぞれ北西と北東の敵集団を処理しつつ中央で合流、以降は南下していく流れが定石だろう。

序盤、マップ北西には友軍ジェーデが取り残され敵の標的にされている。主人公かディアマンドで話しかければ引き続き仲間として参加するが、ジェーデはこの章から重装による大盾スキル「瞑想」を習得しており(ゲーム中会話でも「不安な時は瞑想が一番」と独白 )、守りを固めながら耐えてくれる。
そのためプレイヤーはまず左右に分かれて敵を迎撃することに集中できる。
左側にはカゲツ率いる剣士隊、右側にはゼルコバ率いる盗賊隊がそれぞれ砦を目指して進軍して来る。2ターン目以降、彼らが砦に到達すると異形兵の増援が湧くため、できれば砦到達前に撃破したいところ。
カゲツは必殺率の高い倭刀を持つソードマスターで速さも高く厄介だが、守備の高いルイ(アーマーナイト)などで受け止めれば被害を抑えられる。
ゼルコバは回避の高いシーフだが、魔法攻撃や必中の必殺技で対処可能。
また各所に配置された異形兵(魔物)にも注意が必要。特に中盤以降、中央から異形のアクスファイター(斧兵)が増援で出現し、しかも周囲2マスに5ダメージ与える「死の吐息」スキルを持つ個体もいる。
これらはHPが減っている味方に追い打ちをかけてくるため、増援が来たら範囲外に退避するか、手槍・手斧などで先に反撃して倒してしまうと安全。
終盤、敵将アイビーはマップ南端に陣取って静止している。先に接近するとカゲツ達との同時相手は危険なので、周囲の敵を概ね片付けてから総力戦を挑む。
アイビーはこの章では紋章士の指輪を失っているため(前章でリーフを奪われた)、強力なエンゲージ技は使って来ない。しかしドラゴンナイトで飛行な上、復活ストーン1つ持ちで一度撃破しても蘇生するため、油断は禁物。
効果的なのは弓での攻撃で、エーティエやスタルークを隣接させずに攻撃させれば反撃も受けない。さらに前章入手した賢王の指輪を誰かに装備させておけば、手斧による遠距離反撃やアダプト(多彩な武器自動換装)で対応力が増し、有利に戦えるだろう。
最終的にアイビーを撃破すれば戦闘終了。この時点でスタルークらには「モリオン王を助けに行くぞ!」という焦りがある設定なので、なるべく速やかにクリアするのが演出的には望ましいだろう。
実際ゲーム的にも、攻略に手間取ると四方から増援が増えて泥沼化するため、要所を押さえた迅速な撃破が求められるマップだった。
プレイヤー向け考察・演出意図

第9章は初めて味方が大きな敗北を喫した章であり、物語・戦闘ともにシビアな展開がプレイヤーに突きつけられた。ストーリーでは、頼もしかったモリオン王を目の前で奪われる衝撃的な事件が起き、ディアマンドとスタルークの悲痛な叫びが胸に迫る。
第8章まで順調だった神竜軍にとっても初の挫折であり、物語の雰囲気は一気に暗転した。プレイヤーも「あの豪傑モリオン王がこんなあっさり…」と大きな喪失感を味わったことだろう。
この喪失の衝撃が第9章の肝であり、以降の章で描かれるリュール陣営の苦難の序章となっている。
戦闘面でも、この章は難易度が上昇した。まず敵味方のレベル帯が基本兵種Lv10前後となり、各国の主力級が激突する様相。さらにマップ全域の吹雪エフェクトは視認性を悪くし、プレイヤーに不安感を抱かせる。
加えて、本章から敵の装備が鋼系メインに切り替わり、命中率低下と引き換えに必殺率+5%の効果を持つようになった。そのため味方の幸運値が低いと毎ターンのように低確率必殺のスリルが伴い、運が悪いと想定外の一撃死も起こり得る。
以上のように、プレイヤーはストーリー上でもゲーム上でも苦しい状況に立たされ、否応なく緊張感が高まる。
総じて第9章は、主要キャラクターの生死が大きく動くターニングポイントでした。物語はここから“邪竜との本格対決”へ舵を切り、各陣営の垣根を越えた協力関係が築かれて行く。
その陰で兄を失ったオルテンシアや、父を失ったディアマンド&スタルークらの哀しみが横たわり、プレイヤーは複雑な感情を抱えながら次章へ進むことになった。


