ファイアーエムブレム エンゲージ — ストーリーガイド⑧

第8章:勇ましき王国
ストーリーあらすじ

ブロディア城に到着したリュール一行は、城門前で出迎えに立つ第一王子ディアマンドと対面する。ディアマンドは「待っていたぞ、神竜様。お噂は耳にしている」と落ち着いた笑みで歓迎し 、フィレネ王子アルフレッドにも「遠路ようこそ。我が国に事情は伺っている」と丁重に挨拶する。
アルフレッドとはかつて顔見知りだったようで「本当に久しぶりだな。今が戦時というのが悔やまれる」と旧交を温める。
ディアマンドが弟スタルークの働きを労うと、スタルークは早速グランスール大橋での戦闘について報告。イルシオン第二王女オルテンシア率いる部隊に襲撃されたこと、さらに第一王女アイビーがブロディア城襲撃を企てている可能性があることを伝えると、ディアマンドは即座に「守りを固める必要がある」と判断し「皆、城内へ!」と避難を促す。

しかしその矢先、心配した様子のブロディア王モリオンが居室から飛び出してきた。
「スタルークが戻る頃かと思ったらいても立ってもいられなくてな」と息子を案じる愛情深い父の顔を見せる。
胸騒ぎのまま王も駆けつけたところで、スタルークの報告が改めてモリオンに伝えられる。モリオンは「ほう…イルシオンの者どもが。ついに仕掛けてくる気か…よかろう!」と豪快に笑い 、すぐさま兵たちに「急ぎ城の守りを固めよ!」と号令した。
モリオン王はこの時点でアイビー襲撃の企みに気づき、「情報、感謝するぞ。よくやったスタルーク」と息子を褒める。スタルークは突然の賛辞に「僕なんかに勿体なきお言葉…」と戸惑うが 、モリオンは「お前の卑屈なところは直らんな」と苦笑しつつも温かな眼差し。

一方リュールは、ブロディア王にぜひ協力してほしいことがあると切り出した、それは「紋章士の指輪」の提供である。
するとモリオン王は「紋章士の指輪だろう?」とすぐに意図を察し、「そう仰ると思って指輪はここに持ってきておる。『若き獅子の指輪』をな。ほれ!受け取れディアマンド!」と、自ら身につけていた指輪を豪快に放り投げてよこした 。
ディアマンドは「父上、投げないでください!大切に持ってきてください」とたしなめつつ、リュールに改めて指輪を託す。
こうしてエンブレム・ロイの指輪が神竜軍に加わることになった。リュールは「焔(ほのお)向え、封印の紋章士(エンブレム)!」と詠唱すると 、指輪から眩い光が迸った。現れたのは赤髪の若者の姿をした紋章士ロイ。
「僕はロイ。喚ばれたということは…また戦が始まったんだね」と静かに語りかけるロイに、ディアマンドは「指輪から人が!?」と驚愕します 。モリオンも「なんと神々しい…我が王家に託されし指輪には、このような紋章士が宿っていたのだな」と感嘆し 、「流石は神たる竜のお力だ。礼を言う、神竜様」とリュールに深く頭を下げた。

その時、警備兵から緊急報告が入る。
「イルシオンの竜騎兵がブロディア王城に接近中!弓兵部隊の攻撃を躱してこちらへ向かっています!」
ディアマンドが「…来たか」と息を呑むと、目前の空に漆黒の竜が舞い降りた。竜に騎乗しているのは長身の女性――イルシオン第一王女アイビーであった。
アイビーは「私はイルシオン王国第一王女、アイビー…あなたたちの指輪と、その命、いただくわ」と冷ややかに宣言。こうして、ブロディア城を舞台に新たな戦いが幕を開けた。
キャラクターの心理描写と関係性
ディアマンド

ブロディア第一王子ディアマンドは、弟スタルークとは対照的に落ち着き払った人格者。初登場シーンでは神竜や他国の王子に対しても物怖じせず堂々と接しており、その礼節正しく毅然とした態度から王家の風格が漂う。
アルフレッドとも旧知の仲であることから外交経験もある様子で、「戦時でなければ」と再会を惜しむあたり、高潔ながら情にも厚い青年だと分かる。
弟スタルークからイルシオン襲撃の報を受けた際は即座に防衛指示を出し、王にも共有するなど判断力も的確。ディアマンドは父モリオンのことも心から敬愛している。
しかし同時に、彼は幼い頃から「次期国王」としての重圧に晒されてきた。第8章終了後の会話で、モリオン王が単身敵陣へ赴こうとするのを必死に止める場面がある。ディアマンドは「何を恐れている?戦か?敵か?国が制されることか?」と問われ、絞り出すように「王を…いえ、父上を失うことです」と本心を吐露した。
彼は幼少期から「モリオン王亡き後、この国を支えるのだ」と教えられて育ったため、邪竜復活による戦乱の中で「父上がいなくなる未来」が現実味を帯びてきて、怖くてたまらないのである。
その告白に、普段は毅然とした弟スタルークも「兄上…?」と驚き、胸を痛める。勇敢で完璧に見えるディアマンドにも弱さや葛藤があり、それをさらけ出すシーンは彼の人間味を深めた。
モリオン王はそんな息子に「大丈夫だ、死んだら死んだでどうにかなる。お前が後を継げば国は平気だ」と豪快に笑いつつ、「儂を信じていないようだな。負けると思って守らねばとお前は思っている。若造が、とんだ思い上がりだ」と叱咤した。
王としても父としても強烈な言葉だったが、ディアマンドは最終的に「…仕方ありません。私も覚悟を決めるしかないですね」と納得し、皆で国境へ向かう決意を固める。
この親子のやりとりから、ブロディア王家の気風(弱みを見せず勇敢であれ)が如実に伝わる。同時に、ディアマンドという人物の内面――責任感ゆえの脆さと、それを克服して国の覚悟を体現しようとする強さ――が鮮烈に描かれたと言えるだろう。
モリオン

ブロディア国王モリオンは、家族には愛情深く朗らかな人物。第8章冒頭、自ら城外に出て息子達を出迎え「かわいい息子の迎えをするのにいちいち怒られてはかなわん」と照れ笑いする場面からも、子煩悩ぶりが窺える。スタルークにも「よく戻った」と優しく声を掛け、失態続きの彼を責めるどころか労っている。また、
神竜リュールやフィレネ王子にも物怖じせず気さくに話しかけ、「まさか生きているうちに神竜リュール様と話せるとはな。せっかくの機会だ、歓迎の手合わせを…」と冗談めかしてリュールと一戦交えようとする一幕もあった。(ディアマンドに止められたが)。
このように普段は豪放磊落な好人物だが、ひとたび戦となれば「戦場では鬼神の如くだ」と評される猛将である。実際、先の第7章では息子達の到着が遅れる中、自ら国境で異形兵を討伐して回るほど戦闘を厭なかった。
モリオン王は本章ラストで大きな決断を下す。アイビー軍を退けた直後、イルシオン国王ハイアシンス自らがブロディアとの国境に軍を率いて現れ、単身モリオンとの一騎打ちを求めてきたのである。
明らかな罠であり周囲は反対したが、モリオンは「応じぬのは王の名が廃る」と一歩も引かない。「イルシオンは王自ら呼びかけている。攻め込んでいたこちらが隠れて逃げるのは卑怯者だ。儂は勇敢に戦い散ることは怖くない。それより臆して逃げたと吹聴されるほうがよほど恐ろしい」と言い切り、息子ディアマンドに「子が親を守ろうとするな」と喝破した。
ブロディア王としての誇りと武人の信条が凝縮された言葉であり、ディアマンドもついに折れて「参りましょう、皆で国境へ。我が国の覚悟を見せるのです」と覚悟を決める。モリオンは嬉しそうに「儂はこの城に戻ってくるとも。生きて強者たちと手合わせしたい。もちろん神竜様ともな!」と笑い飛ばし 、リュールが竜に変身できないと知ると「おおそうか!楽しみだな」と無邪気に返した。
モリオン王の天真爛漫さと豪胆さが現れたほほえましいシーンだが、同時にこの時既に死のフラグが立っていたこともプレイヤーには伝わっただろう。王は最後に城の兵達に「必ず戻る。その折には皆に馳走を振る舞わねばな」と声を掛け 、万雷の「ご武運を!!」に送られて城を発った。かくしてブロディア軍は薄幸の決戦へ向かうことになる。
アイビー

イルシオン第一王女アイビーは、第8章の敵将として初登場。ドラゴンに跨がり宙を舞うその姿は威風堂々としており、王女としての威厳と冷徹さを併せ持っている。
実は彼女、第7章の終盤で名前だけ触れられており、妹オルテンシアから「ブロディア城を襲撃するお姉様」として言及されていた。そのためプレイヤーは薄々存在を察知していたが、満を持しての登場となる。
アイビーは父ハイアシンス王の命を受け、強奪した紋章士の指輪の一つ「賢王の指輪」(エンブレム・リーフ)を指に嵌めて出撃してきた。
彼女は無言でブロディア城に侵入し、紋章士リーフの力で多彩な武器を操り襲いかかる。戦闘中のアイビーはあくまで寡黙で、勝敗が決した際にも特に多くを語らない。しかし第8章終了時のイベントで、リュール達がアイビーの持っていた指輪(リーフ)を奪還しようとすると、彼女は動揺を見せた。
結局、敗北を悟ったアイビーは竜に騎乗して退却を図るが、ディアマンドは「ここまでだ、アイビー王女。身柄は預からせてもらう」と捕縛を試む。アイビーは「そうはさせない…私にはまだすべきことがあるもの…」と悔しげに呟き、辛くも撤退に成功。
この時点では彼女の心理描写は乏しいものの、後の章でその胸中が語られることになる(※第9章以降で詳述)。ひとまず第8章では、妹オルテンシアとは対照的に寡黙でミステリアスな敵役という印象をプレイヤーに与えたことだろう。
世界観の掘り下げ
ブロディア王国の内情

本章ではブロディア王国の人間模様が詳しく描かれた。国是として“武勇”を掲げるこの国では、王族自ら戦場に立つことも厭わない。
実際モリオン王は数年前から度々イルシオン領に攻め込み、指輪争奪や邪竜復活阻止を狙っていた節がある。しかしそれは決して独善的な侵略ではなく、「自国民を脅威から守るため」の先制策だった。
一方でブロディア国民にも“強さ”が求められる風潮があり、ラピスが語った「弱ければ奪われる」という掟にもそれが凝縮されている。この思想は裏を返せば「強ければ何でも奪える」という弱肉強食の論理にも通じ、フィレネ出身のセリーヌ王女から「野蛮な国」と評されたこともある。
もっとも、本章を見る限りブロディア王族は決して横暴ではなく、むしろモリオン王のように家族思いで人情に篤い人物もいる。武力と優しさを併せ持つ国柄こそブロディアの本質なのだろう。
スタルークが「兄上は国王や民からも認められている魅力的な方」と語っていたように 、民衆も力一辺倒ではなく徳のある指導者を求めている様子が窺える。戦時下でディアマンドが国を率いることになれば、そうした理想のリーダー像が体現されていくはずだった。
しかし邪竜戦争の激化により、ブロディアはこの後過酷な運命に見舞われる。本章は彼らにとって嵐の前の束の間の安息であり、親子や兄弟が顔を揃える最後のシーンともなった。
イルシオン王国の動向

イルシオン側は第8章時点でかなり切迫した状況にあります。既にオルテンシアが漏らしていたように、邪竜ソンブルの復活後ハイアシンス王の性格は一変し、邪竜に心酔するあまり娘たちへの関心を失っている。
王はソンブルに取り入った“四狗”という謎の四人組(邪竜の僕)や、フード姿の少女(ヴェイル)と行動を共にし始め、国政も彼らに傾倒したものとなった。
イルシオンには元々ソンブル復活を願う熱心な狂信者集団が存在していたが、皮肉にもその悲願が叶ったことで王国全体が邪竜に絡め取られていったのである。
ハイアシンス王は邪竜から気に入られるために各地で指輪強奪に躍起になり、自国に代々伝わる指輪(エンブレム・リンの指輪。通称「草原の公女の指輪」)すら個人の私室に隠してしまうほど執着していた。
こうした背景を受け、第一王女アイビーは指輪集めの尖兵として各地に派兵される。アイビーは忠実に任務をこなすが、妹オルテンシアは父の変貌についていけず苦悩を深めていた。
第8章冒頭の会話では、オルテンシアがロサードに「優しかったお父様も私になんか興味ないみたい。最近はずっとあの人たち(邪竜と四狗)と一緒にいて…」と不安を漏らし、「指輪を取り戻したら前みたいに褒めてもらえると思ったのに…大失敗しちゃった」と自嘲している。
この時点でオルテンシアは姉アイビーの生死を案じつつ、父の愛情を取り戻すには自分も成果を上げねばと焦っている状態。その純真さゆえの暴走が、今後物語に波乱をもたらすことになる。
戦闘マップの構造と攻略
第8章はブロディア城の防衛戦。マップは城内部の玉座の間を再現しており、奥にはモリオン王の玉座、それを挟むように左右に扉が設置されている。
戦闘は2段階構成になっており、前半は手前の広間でアイビーの部下(オルテンシア、ロサード、ゴルドマリー)を迎え撃ち、後半は扉を開けて玉座間に乗り込んで異形のモリオン王とハイアシンス王を倒す流れになる。
まず戦闘開始時、ディアマンドとアンバーがプレイアブルユニットとして新たに加入。
ディアマンドはロード(剣士)で、この時点で既にエンブレム・ロイとシンクロした状態。つまりエンゲージ技「必殺必中の一撃(必ずHP1で踏みとどまるロイのスキル)」が使用可能で、前衛タンク役として非常に頼もしい戦力となる。
アンバーはランスナイト(槍騎兵)で高い攻撃力と機動力を持つが、魔防が低く魔法に弱い典型的な物理アタッカー。彼はディアマンドの臣下であり、明るく猪突猛進な性格からゲーム的には突撃役に向いている。
以上の2人が即戦力として加わり、自軍の出撃枠も(主人公+8名から)主人公+9名に増える。なお勝利条件は「アイビーの撃破」で、防衛地点への到達を許したりリュールが倒されると敗北となる。
プレイヤー向け考察・演出意図
第8章は前章から一転して防衛戦の緊張感を味わえるマップだった。フィレネ編ではほぼ常に攻め手だったプレイヤーが、今回は城を守る側に回ることで新鮮な戦略性を求められる。
特に味方陣営が左右に分断されるレイアウトは、各個のユニット編成や連携が試される巧みなデザイン。また中盤で登場する魔砲台ギミックもユニークで、初見では長射程の魔法に驚かされた人も多いことだろう。
エンゲージは総じてステージごとに特色ある仕掛けが用意されており、この章では“砲台”と“防衛ライン”がプレイヤーを悩ませるポイントだった。
ストーリー面では、ブロディア王家の暖かな交流と迫り来る悲劇の対比が強く印象に残る章だった。序盤では父と息子達が揃い、モリオン王の人となりや親子の情愛が微笑ましく描かれた。
しかし、物語終盤で王が単騎決戦に赴く展開は、あまりに危うい決断ゆえに不穏な予感を抱かせる。ディアマンドのの懇願も虚しく、モリオンがそれを振り払う場面は非常にドラマティックであり、プレイヤーの緊張感を高めた。
皮肉なことに、このやりとりが父子の最後の会話となってしまうのだが、当時の彼らは知る由もない。また本章ではアイビーとの初戦闘があったが、彼女の内面はほとんど語られず謎めいたままだった。
しかし次章以降、アイビーは物語のキーパーソンとなっていく。さらに、ハイアシンス王が儀式をしている「祭壇」の存在や“四狗”という新語など、気になる伏線も散りばめられた。
モリオン王が煽るように言った「儂は城に戻ってくる」(=生還する)というセリフ も、悲劇的なフラグであることは明白で、プレイヤーに胸騒ぎを抱かせたことだろう。
第8章全体を通して、戦闘と演出が相まって物語の緊張度を急激に引き上げ、次なるクライマックスへの期待を高める構成となっている。



